モビゾウ研究室

ツイッター(@Movizoo)で語りきれなかったこと

過去の自分が成仏する瞬間

七年ほど社内翻訳者として働いてきましたが、来年の四月に晴れてフリーランスとして独立することになりました。もともと実力一本で食っていこうと思うほど自分の実力に自信があったわけではなく、フリーランスになるのは60歳ぐらいでいいや、と思っていました。あれよあれよという間にフリーランス転向が決定したのは、学生時代に翻訳のアルバイトをしていた会社の上司から、15年ぶりに連絡があったことがきっかけです。「個人事務所を立ち上げて、自分の研究を手伝って欲しい」と言われました。その話が来たのは、おりしも転職活動の面接を受けた翌日でした。「英語資料の翻訳の仕事」ということで面接に伺ったに関わらず、面接で言われたのは「仕事はほとんど出張費の処理。」とのこと。しかもお決まりの「残業についてはしても良いとお考えですか?」の質問。来年度からは息子の言語療法も始まるし(もちろん平日)、フルタイム残業ありで、しかも英語の仕事ではない、、ということで、「何かしっくりこない」と頭のなかがグルグルしていました。そのときに突然舞い込んだ元上司からの15年ぶりの連絡。私は、「この波は乗らねば!」と瞬間で決断をし、そのまま採用選考中の会社に電話をかけて、選考の辞退を申し入れました。

 

その後のことです。両親に「来年度は仕事はどうするんだ」「そろそろ博士課程に戻って博士号を取らないのか」とお決まりの質問があり、非常に面倒くさかったので、「昔の上司から大きなプロジェクトに誘われたので、これを機にフリーランスに転向しようと思います。形態的には○○研究所の業務委託という形になると思います。」と説明しました。

 

これを聞いて母が言った一言。

 

「○○研究所の業務委託ってことは、人に聞かれたときは娘は○○研究所勤務って答えていいのね?」

 

あまりにズレた質問に心底イライラしながら、「違います。○○研究所から仕事を受けるフリーランスです。」と説明したところ

 

「『娘さん、今何してるの?』って言われるときが一番イヤなの。穴に隠れたくなるの。早く大企業に勤めるか博士課程に戻るかして安心させて」と母に言われました。

 

こういう母の反応に対して、30を超えてから幾度となく家庭内暴力を繰り広げてきた私ですが、今回はもう暴れる気力も残っていませんでした。ただひたすら、この人と関係ない世界で生きていきたい…と思うばかり。とはいえ、母と話した後に数日間は鬱になってしまい、子供たちや夫にも迷惑をかけてしまいました。

 

そしてようやく気持ちが立ち上がりつつあった昨日。子供の習い事(公文式)の個別面談があったので行ってきました。発達障害のある息子に関しては、いろいろとこれまでの育児の苦労について泣き言も言ってしまったような気がします。それでも、あーだこーだ言う私に、先生がニコニコ笑いながら言ったのです。

 

「モビ夫さんがね、モビゾウさんのこといつも『あの人は僕にとても真似できないスゴイところを沢山持っているんです』『息子のこともいろいろ大変だけど、あきらめずにいろいろ研究して、ものすごい頑張ってくれています』『あの人はすごい人なんです』っていっつもおっしゃるのね。モビゾウ一家は、お互いのことをすごく評価してて、すごいと思うのです。だから、息子くんも絶対大丈夫です。なんだか良く分からないけれど、絶対大丈夫だという確信があるのです。」

 

この先生の言葉を聞いて、私は今までにない不思議な感覚に襲われることになりました。涙が出るとか、嬉しいとか、そういう感情ともちょっと違う。ただ、肩に重くのしかかっていた何かが、すーっと離れていくような。先生と話した後に、本当に、体が軽くなっていました。

 

そして分かったのです。あ、これ、過去の自分が成仏したんだ…!!と。

本当に体が軽くなるのです。そして、帰宅してみてみたら、顔がすっきりしているのです。自分が成仏するって、本当にあるのです。

 

「あなたがどこにいようと、何をしていようと、どこに所属していようと、僕はあなたはすごいところを持っていると思っているし、あなたのいいところはちゃんと分かっているし、あなたが頑張っているのも良く分かっている。」

 

これ、親が子供に与えるべきメッセージなんですよね。育児って究極的にはこれさえ伝え続けていれば、子供は満足して育っていくんじゃないかって思うぐらい、大事なことだと思うのです。私はずっとそれを与えられずに育ってきました。こういう学校に行かないと、こういう組織に属さないと、おまえの存在は恥ずかしい、私を喜ばせろ、と親から言われ続けて育ってきました。

 

けれども夫の言葉を公文の先生から聞いて、「私が何者になろうとも、この人の私への愛情は変わらない」ということを知ったのです。そして、私が親から与えてもらいたかったのは、そういう「変わらぬ愛情」であったことも。そしてそんな夫だったからこそ、私は安心してフリーランスへの道を選ぶことができたのだということも。

 

クリスマスイブの日、過去の私がまたひとつ、空に帰りました。

 

Merry Christmas!